コラム
掌は、本質を表出し、人生を俯瞰する。
■人類を進化させた「手」
霊長類は、哺乳類の中で最も大脳が発達しています。
多くは、手、足ともに5本の指があり、手は、親指と他の四指とが向かい合い、物を握るのに適しています。知能が高いことで知られるチンパンジーやオランウータンは、手もよく発達し、手を使って細かい作業を行うことができます。
言うまでもなく、最も大脳が発達した動物である人類は、手の発達が著しく、五指の機能もそれぞれ分化して発達し、指先を使って緻密な作業をこなします。
さて、霊長類のほとんどは森林の樹上で生活しますが、人類の祖である猿人は、樹上から地上に下り、足を使って直立歩行を始めました。人類の手は、歩行の機能から解かれ、自由を得たのです。
新しい地上での生活のために、人類は、手を使って道具を作り出していきます。手の機能は刻々と複雑・緻密化し、より高度な道具を作ることを可能にしていきました。
人類は、手を巧みに使うことで、文化を生み出したわけです。
このような人類の進化の過程を見るに、手と大脳の発達がシンクロナイズしていること、そして各々の機能が密接に関わり合っていることは想像するに難くありません。
人類を人類たらしめるに、手は大きな役割を担って来たのです。
■手のひらのシワは変化する
手相=掌線・指紋は、その人固有の紋様であり、世界に一つとして同じものはありません。指紋が個人識別に用いられているのはご存じの通りです。
近代まで、掌線・指紋は、遺伝的なものであり、一生不変の紋様であると考えられていました。
ところが、実際に長期間にわたって手のひらを観察してみると、掌線が変化して行くのを見て取ることが出来るのです。
今までなかったはずのシワが現れたり、あったはずのシワがなくなったり、シワの形状が変わったりと、その変化は様々です。
もしお子さんをお持ちでしたら、お子さんの手のひらを、継続的に観察してみてください。
特に、乳幼児期のお子さんの手相は、日々、驚くほど豊かに変化していきます。
通常、シワというものは、加齢とともに増えていくものですが、手のひらのシワに限っては、加齢に逆行して数が減ったり、形状が大きく変わったりと、不思議な変化を示します。
若い時にシワの多かった人が、老齢になってすっきりとシワの少ない手になる、などということも珍しくはありません。
一方、指紋は、固定された紋様を生涯保ちますが、その紋様をくずすように、縦、横のスジが立ち現れることがままあります。
■『運命』考
別の項でも触れましたが、占いの多くが、「運命」の存在を前提として行われます。
運命とは、天によって与えられた定めを指します。
個の意思を超えて、個の人生を決定づける絶対的な影響です。
では、「運命」は、果たして本当に存在するのでしょうか。
それは、在るかもしれないし、無いかもしれない。
科学的に証明できない限り、その存在の有無はどちらとも言い切ることはできません。
たとえ在るとしても、それが絶対的なものである以上、個がどう抗おうと、避けることも変えることも敵わぬのでしょう。
一方、私は、手相観として、一般に「運命」と称される影響に近しいものを、個の内側に感じています。
それは、「一人ひとりが持つ独自の選択傾向」です。
人生は、日々の小さな選択の積み重ねです。人は、意識的に、また無意識のうちに、絶えず選択を繰り返しながら生きています。この選択には人それぞれに独自の傾向があり、その傾向が、ある人をA地点に、またある人をB地点へと運んでいくのです。
そして、その個々独自の傾向をその人にもたらすのは、「持って生まれた性質」と、「幼児期の環境によって育まれた選択傾向」ではないかと、私は考えています。
「持って生まれた性質」とは、言い換えれば、生まれつき備わっている性格と物事の嗜好(好き嫌い)であり、「幼少期の環境によって育まれた選択傾向」とは、周りを取り囲む大人たちを通して学ぶ、物事の価値観と優先順位の付け方です。
よく、「私は金運が悪い」「恋愛運がない」などとおっしゃる方がいらっしゃいます。
しかし、多くの場合において、「運が悪い」と思うに至る経過を詳細に検証した時、そこにはある法則的な選択傾向を見て取ることができるでしょう。
逆も然りで、「運が良い」と思うに至る経過にもまた、法則的な選択傾向を発見することができるはずです。
人間は、大なり小なり「こうありたい」と願い、そのために努力する動物ですが、個の意思や表層的な意識とは別に、この「個々独自の選択傾向」は、その人の行動をある方向に向かわせていくのです。
それは、「運命」とは言えないにしろ、「運命的にその人の人生を方向づける大きな影響」と言えるでしょう。
では、その「人生を方向づける大きな影響」=我々が己の内側に抱えた「運命」に近しいものは、運命と同じく、避けることも変えることもできない絶対的なものなのでしょうか。
私は、その影響が個の内側にある以上、個の意思をもって変えることができると信じています。
そしてそのためには、自分という個の実態を、とことんまで客観的に知ることが必要であろうと考えています。
自分を客観視し、自分の選択傾向を認識できた時、我々は、「運命」や「運」と称されるものの多くを、絶対的なものから可変的なものへと変化させることができるのではないでしょうか。
この推考に立った時、自分という個の実態を知る一つの方法として、人生を方向づける運命的な影響を見通す一つの手段として、手相が有効な役割を果たすことができるのではないかと私は考えるのです。
過日、あるテレビ番組で、心と遺伝子の関係について、全く同じ遺伝子を持つ一卵性双生児を対象に、興味深い考察が行われていました。
番組では、遺伝子が心に及ぼす影響を考察するため、別個の環境で育った一卵性双生児の行動パターンを実験・検証しています。
離れ離れに育てられた一卵性双生児には、嗜好や行動パターンに驚く程の類似性が見られることがあるそうです。
相手の存在を知らず、全く別の環境で成長したにも関わらず、同じような音楽を好み、同じような職業に就き、また、同じ名前のパートナーを持つといった驚くべき類似性を持つ例もありました。
一方、出生時から同じ環境で生活し、もう一人の自分とも言える存在を客観的に見る環境で成長する一卵性双生児は、全く同じ遺伝子を持ちながらも、相手とは性格、さらに人によっては外見までも、それぞれ違った個性を確立していく傾向があるようです。
相手を知ることなく別々に育った一卵性双生児と、共に育った一卵性双生児との相違は、自分と類似する存在を意識して育つかどうかにあります。
別々に育ったからこそ高い類似性を持つということは、無意識に遺伝子の影響を強く受けているということになります。
逆に言えば、人間が自分の性質を客観的に認識することで、遺伝子の影響を超え、自分自身の意思で人生を決めていくことができるのでないか、と番組は結ばれています。
この番組での考察は、先にあげた私の推考に、ある程度の有効性を与えてくれているのではないかと思います。
手相は、個を基にした占いであり、「運命」を前提としない占いです。
手相で知り得る情報は、あなた自身にまつわることに限定されますが、それは一方、ほかの占いでは知り得ない情報でもあります。
「運命」と称される影響のうちのいくらかでもが個の内側にあるとしたら、そしてそれが「運命」とは異なり自分の意思で変えていけるものだとしたら、手相は最も積極的にその変化に関わっていくことができる占いなのではないかと、私は考えるのです。
■掌線(しょうせん)について
シワというものは、通常、皮膚の老化、または動作の反復等により折ジワとなって生じるものです。
ところが、手のひらのシワに限っては、皮膚の老化や折ジワでは説明のつかない変化が現れます。
加齢に逆行してシワの数が減ることは珍しくありません。
職人の方や楽器演奏者の方など、手先をよく使う職業に従事している方の方が、手を折り曲げる動作が多いにも関わらず、シワが少なく、すっきりした手相をされていることが多いようです。
また、ストレスが高まると細かいシワが増えたり、体調の不調がシワになって現れたりと、内部からのシグナルが手のひらのシワに変化を与えます。
手のひらは、その人の心身の状態をシワとして表出する特異な部位と言えるでしょう。
ここでは、基本的な手のひらのシワ=「掌線」をご紹介します。
一つ知っておいていただきたいのは、それぞれの掌線は、あくまでも便宜上呼び分けられているに過ぎないということです。
掌線1本1本にはもちろん別個の意味がありますが、それらは時にお互いの意味を補ったり強めたりと、臨機応変にその意味を拡張させるのです。
ですから、手相を読み解こうとする時には、掌線1本にかかずらうことなく、柔軟な目で手のひら全体を見通すことが必要です。
【生命線】生命力の質=肉体的・精神的性質などを表します。
【頭脳線】思考の方向性や資性などを表します。
【感情線】情緒、価値観、他者との関わり方などを表します。
【運命線】社会性を表す線で、人生の方向付けに密接に関係します。
【太陽線】創造的な性質、充足感などを表します。
【結婚線】結婚そのものではなく、他者との関わり方や欲求などを表します。
【財運線】商才や蓄財能力などを表します。
【土星環】物事に固執しやすい性質を表します。
【金星環】創造的な性質と感受性などを表します。
【ソロモンの環】感性の鋭さ、知的感度の高さを表します。
【副生命線】生命線を補いまたは強める線です。
【健康線】健康状態などを表します。
【手首線】体力・持久力を表します。
【移動線】旅行と移動を象徴する線です。
【影響線】恋愛関係などを表します。
【障害線】挫折や障害などを表します。
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